株の道筋
日本の経済針路新政権は何をなすべきか 二〇〇一〜○七年の戦後最長景気は、米国発の金融危機と世界同時不況によって終わり、日本経済は、○八年度に戦後最長・最深のマイナス成長に陥った。
折りしも政治の世界では、○九年の総選挙で政権交替可能な議会制民主主義が、日本で初めてスタートするかどうかの瀬戸際にある。
総選挙後の新政権が直面する日本経済は、「百年に一度」と言われる程厳しい世界同時不況の中で、容易ならぬ事態に陥っている。
○九年初めには、輸出と鉱工業生産・出荷が前年比で四割前後も落ち込み、その衝撃が雇用、所得など国民生活全般に広がっている。
新政権は、このような事態に直面して何をなすべきであろうか。
日本経済の針路をどこに定め、どのようなマクロ経済政策を展開すべきであろうか。
「日本経済の現状」では、これからのマクロ経済政策を考える出発点として、政策の最終目標である日本の国民生活が、いまどのような状態にあるかを確認する。
名目雇用者報酬(勤労者所得)は、戦後最長景気の最終年である○七年になっても、景気上昇が始まる前の○一年以前の水準に復していない。
景気が上昇したのに、勤労者の所得は増えなかったのだ。
そればかりか、○七年秋から○八年にかけての消費者物価の上昇で、実質の所得は低下した。
将来に備えた預貯金も、超低金利が続いているために大きく目減りした。
○七年中頃までの大幅円安で、輸入品は値上がりし、海外旅行の費用は上昇した。
国民は、超低金利、円安、物価上昇、雇用・所得不安の四重苦に悩まされてきたのである。
K・A・F・A政権の下で続いた○一〜○八年経済は、何故、このような四重苦を国民に押し付けることになったのか。
一つは、価格体系の変化に伴うGDPデフレーターの下落をデフレの継続と見誤り、いつまでも超低金利を続けて、円安、輸入物価上昇の負担を国民に強いたことがある。
もう一つは、○一〜○八年経済がそれに先立つ経済から受け継いだ財政赤字、不良債権、潜在成長力の低下という重荷である。
H政権が、官僚の情報操作に乗せられて、不良債権の実態を知らないまま、九七年度の(超緊縮予算二三兆円の赤字圧縮)を強行したため、景気後退で財政赤字は逆に拡大し、金融危機は激化し、潜在成長率は低下した。
「「K改革」の失敗」では、このような重荷を受け継いだ○一〜○八年の経済運営を分析する。
K政権は、財政赤字を縮小するため、公共事業の圧縮、社会保険料など国民負担の増額、地方自治体への補助金削減を図り、国債発行額をピーク時(○四年度)の三五・五兆円から○七年度の二五・四兆円まで削減した。
同時に、このような財政緊縮で景気が失速しないように、超低金利で円安を進めて輸出を伸ばし、また金融危機に対処した。
この「財政緊縮・金融超緩和」のポリシー・ミックスこそが、極端に輸出に偏り、内需の停滞した日本経済の体質を作り、企業収益と勤労者所得、輸出企業と内需企業、大企業と中小企業、中央経済と地方経済、の格差を拡大した。
K内閣の行った郵政事業、道路四公団、政府金融機関の民営化は、その事業内容を改革せずに、ただ形だけを民営化した。
それは内容を温存するための形だけの変革であり、戦後システムを形を変えて維持するためのものであった。
「米国発の金融危機の衝撃」では、米国における住宅バブルの膨張を破裂するまで放置した米国の金融政策の失敗と、銀行の住宅ローン証券化商品と派生商品の拡大で、銀行部門の外に形成された「ハイーレバレッジの投資銀行ビジネスーモデル」を放置したブルーテンス(信用秩序維持)政策の失敗が、今日の金融危機と世界同時不況の根本的原因であることを述べる。
そして、米国の膨大な不良債権が企業にではなく、家計に存在するため、その整理には時間がかかるし、大型の財政出動で一時的にプラス成長に戻ったとしても、不良債務を整理する期間を通して家計の貯蓄率は高まり、長期間米国の経済成長が停滞する可能性が高いことを指摘する。
米国発の金融危機に翻弄される今日の日本の姿は、円安バブルを伴う資金流出で米国の住宅バブルの膨張に加担し、また円安バブルで海外からの撹乱に弱い外需依存、内需停滞の経済体質を作ったという二点で、残念ながら自業自得であることに触れる。
最後の「国民生活重視のマクロ経済政策を」では、これまでに述べた事すべてを踏まえて、新政権が採るべき日本の経済針路について考える。
日本の国民生活は、超低金利↓円安バブル↓外需依存・内需停滞↓格差拡大、に悩まされてきたのであるから、金融危機に伴う円安バブルの崩壊・円高は、国民生活を重視する内需主導の経済運営に切り換える好機である。
第一に、「財政緊縮・金融超緩和」のポリシー・ミックスを改めるため、国民生活の安全・安心対策(「安全ネット日本計画」)と低炭素社会を目指す環境対策(「スーパーエコ日本計画」)を中心に、内需喚起の財政政策を積極的に展開し、反面で民間と地方自治体に対する中央官庁の過剰介入の組織と人員を縮小し、全体として「緊縮財政」から「中立財政」に戻すべきである。
そうすれば金融も、内需の立直りを待って「超低金利」から「正常金利」に戻ることが出来る。
日本の輸出企業は、国内からの輸出を、日本でしか出来ない高い技術の高付加価値製品に絞り、あとの製品の生産は、海外の生産拠点への直接投資を増やし、そこヘシフトすべきである。
そして日本からの輸出と輸入をほぽバランスさせ、為替変動の影響を受けにくい経済体質になることが望ましい。
大企業は国内のシェア争いではなく、グローバルな世界市場でのトップ企業を目指し、必要なら今日の金融危機の傷の浅い日本の金融機関をバックに、資金調達とM&Aを推進して、海外に雄飛すべきである。
そして海外投資の効率を高め、海外からの受取所得を拡大すべきである。
国民生活の基盤は、国内での生産(実質国内総生産〈GDP〉)ではない。
実質GDPに、海外からの純受取所得と交易利得(交易条件の好転)を加えた「実質国民総所得(GNI)」である。
実質GDPの成長率ではなく、実質GNIの成長率に、マクロ経済政策の戦略目標を定めるのが、生活重視のマクロ経済政策である。
K政権以降の円安と、海外商品市況の上昇で、○一〜○八年の交易条件は悪化を続け、実質GNIの成長率は実質GDPの成長率を下回り続けた。
これからは、「正常金利」で、実質実効円レートの安定、名目実効円レートの円高を維持し、高品質の輸出製品で輸出価格を高く維持し、交易条件の好転を図るべきだ。
「強い円」をバックに、円建ての国際金融市場、国際資本市場の拡大を図り、円建ての対外資産を増やすことによって円高に伴なう対外資産の減価を少なくし、対外資産の運用効率を高めるべきである。
今日の金融危機で破綻したのは、「市場主義」ではない。
「市場の失敗」に対処する公共政策の重要性を軽視した「市場原理主義」、あるいは竹中流「市場至上主義」が破綻したのである。
世界レペルで具体的に言えば、住宅バブルを破裂するまで放置した米国のマクロ経済政策と、「ハイーレバレッジの投資銀行ビジネスーモデル」を規制しなかった世界のブルーテンス政策が失敗したのである。
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